2011.01.06 少年期2
あの人の話で特に印象の強い19歳の頃
すぐに除籍処分となった埼玉大の事は
成田闘争の学生運動に参加した事くらいしか聞いていないが

以前にも書いた
同級生達で組んでいたバンド仲間と
渋谷の屋根裏でライブをした事や
19の夏の忘れられない恋の話など
一番、思い出深い青春の日々を送った時期だと思う


彼女に初めて出会ったのは
青年団のハイキング登山と聞いている
ハイキング登山なので
他の人がみなジーパンにスニーカーを履いているのに
一人だけスカートにハイヒールという軽装の彼女を見て
最初は「ふざけた女だ」と思ったようだが
山道で手を貸し会話をするうちに
友達に誘われハイキングと知らず参加したとわかる

その後、間もなく二人はひと夏の恋に落ち
やがて彼女は子供を宿した

4歳年上だった彼女には病弱な母と小学生の弟が居て
看護師をして家計を助けていたので
「弟が働けるようになるまでは
自分が家を出ることは出来ない」と言ったが
あの人が実家の分も稼いで養うからと説得し
二人で暮らすためのアパートを借り
義父母と共に彼女の母親に結婚の承諾を貰いに行った

…はずだった

しかし、前夜の話し合いで納得してくれていたはずの
義父の口から出たのは思いもよらない言葉だった
結納金として用意した封筒を出し
「どうか、お腹の子供を処分して下さい」と

そうする事を義母すら聞いていなかったが
あの人の言葉はむなしく響き
彼女と別れる事になる

真っ直ぐだった少年のあの人は
行き場のない怒りを持て余し
お腹の子供を守れなかった彼女を責めた

別れの日、薄化粧の彼女が初めてルージュをひいて
涙をこらえながら静かに笑みを浮かべ
白いワンピース姿で夕暮れのホームに立っていた
その光景が目に焼き付いていると言っていた

彼女の名はよしこちゃん
その十年後、あの人が浦和の駅で1週間待った女性だ

あの人が生涯子供を作らなかったのは
この時、生まれることが出来なかった
彼女のお腹の子に対する罪滅ぼしだった

私にはあの人の真っ直ぐな気持ちもよくわかるし
義父の親心も理解できるが
この時のことが原因であの人は南千住の家を出ることになる


※ 主人から聞いた話を元に書き記しました




あの人に聞いた想い出話は
いつも、事柄以上に
その時々の気持ちを強く感じた
あの人が私に伝えたかったのは
心の奥にしまってある
大切な想いだったんだ



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