2010.11.02 才能
あの人は色んな才能を持っていた
もし漫画家を辞めても
きっと何でも出来ただろう
でも疲れちゃったんだ
あまりにも優しすぎたから
人の汚い部分をもう見たくなかったんだ…

20代で会社を興し広告屋をやっていた頃
仕事も収入も安定していたらしいが
生意気な若造の会社は大人に邪魔され
潰される前に自分から会社を閉じた

次にあの人は
漫画家だったら自分の才能だけでやっていけるって信じて
誰の力も借りず努力した
あの人はたぶん画を書きたかったんだと思うけど
色んな事を何でもよく知っていたあの人は
次第に物語を作る才能が高く評価され
原作の仕事が増えていった

あの人は睡眠時間を削り
たくさんの物語を考えプロットを書いた
たとえ原作として世にでなくても
担当の編集さんに褒めてもらうとそれだけで満足げだった

数年前、私がテレビドラマを見ていたとき
あの人が「おもしろいか?」って聞いた
私が「うん」って答えると
「そうだろ、元ネタ考えたの俺だから」って言った

あの人が担当者さんに喜んで貰うために書いたプロットは
名の売れた人気原作者と呼ばれる人の元へ渡り
違う作品として世に出ていた
その見返りとして用意されたのは
亡くなった原作者に変わって連載の続きを書く仕事
どうしても断れず数回書いたようだが
あの人にとってそれは死者に対する冒涜であり
優しいあの人にとって何より辛い事だった
最後まで原作者の欄に自分の名前を載せる事を拒み
それきり大手出版社の原作を書かなくなった

あの人はこれまでに何度も運命に邪魔をされ
大切な物を掴む寸前で失ってきた

あの人は強がりで同情されるのが嫌いだったから
どんな時でも私の前では笑顔で平気なふりをした
私もずっと見て見ぬふりをしてきた
でも、本当はあの人が可哀相で可哀相でしかたがない
何もしてあげられなかった自分と
何も出来ない自分が今も情けない
Secret

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